第14回 UTMB 優勝者は男女共にフランス人。
しかも男性の Ludovic Pommet は 41 歳、女性の Caroline Chaverot は 39 歳と、この世界ではベテランと言って良い世代。
男性陣では一昨年、昨年のチャンピオンが出場していなかったとは言え、連日 35 度以上の真夏日の続く中でのレースで、「ベテラン」ならではの技術と精神力が物を言ったのではないでしょうか。
スペイン人の層の厚さ、強さに圧倒されがちなトライルですが、地元フランスの頑張りに例年以上の盛り上がりを見せた今大会でした。
2014年のレユニオン島でのトライルレースで2位に入った実力者とはいえ、今大会ではアウトサイダー的存在であったリュドヴィック。
彼自身も全く「優勝」、さらには表彰台に上がれることすら考えていなかったようです。
スタート後しばらくしてから激しい腹痛に襲われ、歩くことすらままならなくなった状態。
彼のコーチもエイドエリアで待機するリュドヴィックの奥さんに10月に出場が決まっているレースの事も考え、体を駄目にする前にリタイアする覚悟も必要だと伝えていたそう。
名だたる優勝候補者がレースの早い段階で次々とリタイアする展開の中、彼の頭にあったのはただこのレースを完走することのみ。
スタート直後から後続に差をつけていた昨年度 CCC ( 101km )の優勝者 Zach Miller ( アメリカ ) もこれだけ長いレースに参加するのは初めて ( 170km ) 。
レース後半のスタートから124Kmの地点にあるエイドエリアでミラーは後続二人に追い上げられ、しばらくは3人での並走が続く。その10分後に4位の選手が通過、リュドヴィックはさらにその数分後に5位で通過。
そこから15km程先でついにリュドヴィックが先頭集団をとらえ、さらに加速し差を広げていく展開に。
しかし、いくらなんでもこのリズムは最後まで維持できないだろう、Top 10 までは入れれば、と考えていたと言うリュドヴィック。
そこからは30度を超す気温との戦いに。
日陰が無く、流れ出ているはずの小川も涸れてしまっていて体を冷やすことも山間地帯。
「バトンが前に進むことを助けてくれた」と。
確かに結果的には大幅に順位を下げてしまった優勝候補筆頭のミラーはバトンなしで走るタイプ。最後の山越えで前に進むことにかなり苦しんでいる様子がライブテレビ(インターネット)に映し出されていましたっけ。
そしてとうとうリュドヴィックは後続との差をその後も保ちながらゴール。
娘さんの帆走のもとにゴールテープを切った時には恐らくこの上もない幸せを味わったことと思います。
女子の部門はレース当初から2016年度の主な大会で勝利を分け合ってきた今大会優勝候補者、フランスのキャロリンヌとスイスの Andres Huser の一騎打ち。
スタートから110kmの地点で20分、その後7分、そして4分と二人の差がどんどんと縮まっていく中、昨年度の記憶が皆の脳裏に蘇ってきた(最後のヴァロルシンヌでそれまでレースを引っ張て来たキャロリンヌがリタイアする大波乱)のは確か。
しかしそこは昨年度の屈辱を果たすべく、キャロリンヌが驚異の粘りを見せ、最終的には7分差をつけて見事に優勝。
それにしても2位に入ったアンドレスも45歳だとか。
男子の優勝タイムも昨年の閃光烈火のごとく走り抜けたザビエのそれから1時間以上の遅れ。
今年がいかに暑さに悩まされたか、このタイムからも分かりますね。
果たして昨年の様な気象状況であったらリュドヴィックは優勝できたかどうか。
ベテランの経験と粘りがものをいった大会であったことは確かです。
CCCの男子の部門も優勝はフランス人。
アヌシーのPGHM(高山岳警備隊)に所属する Michel Lanne にとってはこれがモンブラン・ウルトラトライルでの初レース。例年彼の所属するチームの応援に来ていた彼はUTMBのリュドヴィック同様、優勝できるとは思ってもみなかったとのこと。
そして日本で「今最も注目を浴びている」(2014年日本トレイルランナー・オブ・ざ・イヤーを受賞)と言われる若干22歳の上田瑠偉選手がトップから5分強差で見事に2位に入ってくれました。
彼のプロフィールは以下のサイトからどうぞ。
http://fun-run.tokyo/runners1-3-1.html
上位4名の戦いはゴールまで続いたそうで、トップから4位までのゴール時間はたったの15分差。
昨年の52位から一気に2位にまで上り詰めた上田選手。2009年にUTMBで見事に3位に入った鏑木選手の様にこれからもこのシャモニー谷にその名前を轟かせてくれることと思います。
下のビデオ、最後は専属(?)カメラマンさんが追い付けないくらいのスピードでゴールしています。
大会で注目を集めたのはUTMBだけではありません。
ここ数年のこの人の活躍には目を見張るものがあります。
2010年のCCC、2013年と2015年のUTMB、そして2014年のTDSと、それぞれ初参加の旅に見事に優勝を果たしていた彼 Xavier Thévenard。
今回、また初参加でのOCCでしっかりと優勝してくれました。これでモンブラン・ウルトラとライルでの初のグランド・スラムチャンピオンとなったのです。
今回の参加にあたって、100km以上の長いトライルに慣れている彼は、この55kmという短いとトライルでの「優勝」は考えていなかったそう。若いからかまだまだ良い結果を出す時とそうでない時との差がかなりあるようですが、ジュラ出身の28歳のこの若者。これからどれだけ大きなランナーになっていってくれるのか楽しみです。
2位で入ってきたのはアフリカ勢で初の表彰台となるモロッコのランナー。ほとんどモロッコの地を出たことがないという砂漠のランナーが偉業を果たしてくれました。
2位と3位との差は最終的には25秒。
感慨にふけりながらゴールするが常なのですけれど、後ろから迫ってくるランナーに気づき、ゴール間近に慌てて猛ダッシュ、、、と最後まで観客を盛り上げてくれたみたいですね。
それにしてもこの連日の真夏日のなか続いたレース(最終日は強烈な雷雨にも見舞われた)。
リタイアされた方の人数(タイムアウトも含め)も半端ではなありませんでした。
UTMB では1087名 ( 1468 名 ) 、CCC 744名 ( 1386 名 ) 、TDS 734名 ( 1060 名 ) 、OCC 183名 ( 1231 名 ) 、PTL 58名 ( 48 チーム ) 。
* ( )内は完走者数
継続するより諦める方がよほどの勇気がいる、とも言います。
無理をし後々に影響を与えてしまうより、辛い決断も時にはする必要があるというのは人生でも一緒ですね。
優勝すること、表彰台に上ることだけが目標ではありません。
それぞれのランナーがそれぞれの思いを胸に、それぞれの目標に向かって懸命にかけていく姿には心打たれるものがあります。
家族の方にとっても結果はどうあれ、その姿は心にしっかりと刻まれた事と思います。
下写真6はUTMBタイムアウト間近に懸命にゴールを目指す方達。しっかりと観衆ののヒーローになっています。
最終走者はフランスのLaurence Dupont 選手。トップから24時間 42分後、46時間42分をかけ 1468 人目で見事にゴールにたどり着きました。
下写真7のゼッケンナンバー744番の こじま たけのり さんも46時間20分、全体の1456番目でしっかりゴールされています。
「時間内にどうにか戻ってこれたよ~。」と満足げに笑顔で観衆に答えながら通り過ぎて行かれたのが印象的でした。
町中にはこの様に大きなスクリーンも設置され、夏のひと時を大いに盛り上げてくれていました。
ウルトラトライルサロンも年々ますます大きくなる印象。
世界各国からこのトライルを見たいが為にやってくる方々で大いに賑わったこの1週間でした。
また来年までさようなら。
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